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染色体正常な胚を移植しても流産に至るのはなぜか?

論文紹介
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2017年1月の、HART TVカンファレンスで取り上げた論文を紹介します。 ※内容をざっと知りたいという方は、「要約」と「解説」をお読みください。 “Why do euploid embryos miscarry? A case-control study comparing the rate of aneuploidy within presumed euploid embryos that resulted in miscarriage or live birth using next-generation sequencing” (Fertil. Steril., 2016) 「どうしてeuploid胚は流産に至るのか?euploidと判断されたが流産または出産に至った胚に対し、次世代シークエンサーを使ってaneuploidyの割合を比較した症例-対照研究」 ・要約 PGSによる遺伝子の解析方法には、アレイCGHという方法が一般的に行われてきましたが、近年次世代シークエンサー(NGS)という精度の高い方法が用いられるようになっています。この方法を用いて、アレイCGHでは正常と診断されたが流産に至った胚からのサンプルを再解析したところ、染色体異常(主にモザイク)が多くみられたという報告です。 ・目的と方法 アレイCGHによるPGSを行って染色体数が正常と診断された胚を移植して流産だった場合に、検査で検出できなかった染色体異常がどの程度影響しているかを明らかにするために、38名の流産患者と同数のコントロール(出産群)に対し、保存されたDNAサンプルをNGSを用いて再検査し、結果を比較しました。 ・結果 流産群ではアレイCGHによるPGSで正常と診断された胚の31.6%がモザイクであり、5.2%が3倍体でした。コントロールでは、モザイクは15.8%で、3倍体の検出はありませんでした。つまり正常胚と診断されたものの中にも、流産群ではコントロールの約2倍の染色体異常胚が含まれており、有意に高い割合でした。 ・まとめ NGSを利用することでより多くの染色体モザイクや倍数体を検出することができる可能性があります。また、モザイク胚の一部は出産に至るため、破棄されるべきではないと考えられます。 ・解説 PGSの手法として、アレイCGHに代わる方法としてNGSが近年利用されるようになってきました。NGSの利点は、高い精度(染色体の本数については感度・特異度ともに100%)と、低いコスト、アレイCGHでは検出できなかったDNAの微小な欠失や余剰なども検出できることなどが挙げられます。モザイク胚とは、一つの胚の中に2つ以上の染色体数をもつ細胞が混在することで、このような胚でも、異常な細胞が淘汰されて正常な出産に至る例もあることが知られています。NGSでは、その高い精度から、アレイCGHでは検出できないモザイシズムも検出することができます。 この報告より、以下の2つのことが言えます。 NGSを用いたPGSでは、正常胚を移植した場合、従来型のアレイCGHによるPGSで報告されているより高い妊娠率と低い流産率が期待できる。 一方、NGSを用いたPGSでは生まれるはずの胚を排除してしまうリスクも含んでいる。モザイクと診断された胚でも正常妊娠に至る可能性があり、他に選択肢がない場合移植の候補として考えられるべきである。 1.について PGSに関する大規模調査の結果では、流産率を減少させるものの、妊娠率を有意に上昇させるとは言えず、世界的な学会においても有用性については結論が出されていません。しかし、これらはアレイCGHを用いた場合の結論であり、NGSを用いた場合は有用性が認められる可能性があります。今後の調査報告が期待されます。 2.について 本研究結果から、正常出産の約15%もがモザイク胚であったことがわかりました。モザイク胚の何割が出産に至るかは、現時点で学会報告レベルでしか報告がありませんが、26%が継続妊娠に至るとも報告されています。流産予防というPGSの本来の目的を考えると、モザイク胚を移植するかどうかは難しい問題ですが、他に選ぶ胚がない場合、移植を積極的に検討してもよいのではないかと考えられます。 モザイク胚から正常な染色体の児が生まれる理由としては、胚の発育段階で細胞分裂の際に分配異常を起こした細胞は淘汰されるか外側に押しやられ、胎児になる部分には染色体数の正常な細胞が優先的に残ると考えられており、さらにPGSで採取するのが胎盤になる部分の細胞であるため、児の染色体は正常であってもモザイクが検出されると考えられます。これは多くの研究により裏付けられています。 このことから、モザイク胚は全て破棄されるべきではなく、場合によっては移植を検討してもよいと考えられます。ただし流産予防と治療期間の短縮という意味でも、移植後には羊水検査を行うことがすすめられます。

卵巣予備能の最大活用-1周期に2回採卵を行う方法 (DuoStim)

論文紹介
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2016年10月の、HART TVカンファレンスで取り上げた論文を紹介します。 ※内容をざっと知りたいという方は、「要約」と「まとめ」だけお読みください。 “Follicular versus luteal phase ovarian stimulation during the same menstrual cycle (DuoStim) in a reduced ovarian reserve population results in a similar euploid blastocyst formation rate: new insight in ovarian reserve exploitation” (Fertil. Steril., 2016) 「卵巣予備能の低い患者に対し、同一月経周期の卵胞期と黄体期に卵巣刺激を行ったところ(DuoStim)、正常染色体数の胚盤胞形成率は同等であった:卵巣予備能の活用に関する新しい知見」 ・要約 この研究では、同一月経周期の卵胞期(FP)と黄体期(LP)に2回卵巣刺激を行い、得られた胚盤胞の数や正常染色体数の(以下正常な)胚盤胞の割合を比較しました。その結果、FPでもLPでも得られる胚盤胞の数と質に有意差はなく、1回の周期で2回の採卵をすることにより、少なくとも一つの正常染色体(以下euploid)胚盤胞が得られる患者の割合が41.9%から69.8%に上昇することがわかりました。 ・背景 近年、若年の癌患者で抗がん剤治療開始前に妊孕性温存のための早期の介入が必要な例に対し、月経周期のどの時期からでも卵巣刺激開始できるランダムスタート法といった方法が行われるようになってきました。 また、1回の排卵周期に2回の卵巣刺激を行う方法を主に卵巣予備能力の低下した患者に行い、両周期で同数の卵子と胚盤胞が得られたといった報告もありますが、胚盤胞の質について調べた報告はいまだありません。 ・方法 本研究では、得られた胚盤胞に対し異数性評価のための着床前遺伝診断を行い、MⅡ卵あたりの正常な胚盤胞の割合をFPとLPで比較検討しました。 対象患者は、卵巣予備能の低下した患者で、平均年齢39.2歳、AMH平均0.7ng/ml、前胞状卵胞数が平均5.2個です。 刺激は、両者ともアンタゴニスト法(月経開始2日目からと、採卵後5日目からrFSH300単位+rLH75単位を連日投与開始)で行いました。採卵前のトリガーはGnRHアゴニスト注射を使用しました。得られた胚盤胞は全てガラス化保存し、自然排卵周期で移植を行いました。 ・結果 43人の患者にFP, LPの両方で採卵を行い、それぞれ42人からMⅡ卵が得られました。1個以上の胚盤胞が得られた例がそれぞれ31人と33人で、いずれの周期でも胚盤胞が得られなかった例が3人ありました。 それぞれの周期で要した刺激日数(9.6日 vs 10.3日)、得られた卵子の数(5.1個vs 5.7個)、MⅡ卵の数(3.4個vs 4.1個)、受精卵数(2.3個 vs 3.2個)の平均値に有意差を認めず、得られたMⅡ卵あたりの胚盤胞到達率(34.5% vs 33.5%)、euploid胚盤胞率(16.2% vs 15.0%)に有意差を認めませんでした。生検した胚盤胞あたりのグレードや、euploid率(46.9% vs 44.8%)にも有意差を認めませんでした。 FPおよびLP周期でそれぞれ18人、23人の患者が少なくとも1つのeuploidの胚盤胞を得ました。後者のうち12人は、LP周期でしかeuploid胚盤胞が得られませんでした。すなわち、LP周期で2度目の採卵を行うことは、少なくとも1つのeuploid胚盤胞が得られる割合を18/43(41.9%)から30/43(69.8%)に上昇させました。 現時点で15個のeuploid胚盤胞について凍結胚移植が行われ、FP刺激で得られた胚盤胞7個のうち、5個(71.4%)が継続妊娠に至り、LP刺激で得られた胚盤胞8個のうち5個(62.5%)が継続妊娠に至りました。 ・まとめ 本研究結果から、1回の周期で卵胞期と黄体期の2回卵巣刺激を行い、得られた卵の数も質も両者で差がないことが明らかとなりました。癌治療などのため早急に採卵が必要である場合に加えて、卵巣予備能が低下し、時間が貴重であるような症例にもこのDuoStim法は有用であると考えられます。 当院でも、卵巣予備能の比較的低下した患者さんに対し、通常の採卵で採卵数が少なかった場合や排卵済みであった場合に、採卵後5日目から再度刺激を行い、採卵を行う場合があります。黄体期では黄体ホルモンによって下垂体が抑制されているため、内因性のLHサージが起きにくく、排卵済みが避けやすいといったメリットもあります。限られた治療回数の中でできるだけ多くの胚盤胞を得るには、時期にかかわらず出だしの多く見えている時期から刺激を開始することも効率的な方法であると考えられます。

2016年9月 第34回日本受精着床学会より

学会報告
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当院院長 岡が、2016年9月15日(木)に軽井沢にて行われた第34回日本受精着床学会にて講演を行いました。 講演の内容を以下にご紹介します。 1.多嚢胞卵巣(PCO)で反復着床障害の患者の当院での救済法 当院で2015年1月から2016年1月までの約1年間に、全胚盤胞をガラス化保存し、融解胚移植を受けたPCO患者37人(平均年齢36.4歳)についてコンピューターデータベースより後方視的に検討しました。 37人中、出産あるいは継続妊娠は29人(78.4%)でした。内訳はHRT(ホルモン補充)周期に移植をして、24人(82.8%)(MD双胎1例)、クロミッド+HMG排卵周期移植が5人(17.2%)(DD双胎1例:1個移植+タイミング併用症例)でした。クロミッド+HMG排卵周期移植は、HRT周期で複数回妊娠が不成功であった7症例に行いました。 妊娠した5人は全て1回目のクロミッド排卵周期移植で妊娠が成立し、継続妊娠となりました。2人は妊娠しませんでした。妊娠した患者の平均年齢は35.4歳、非妊娠患者の平均年齢は40.1歳であり、有意差を認めました(p<0.01)。 1年間のガラス化胚盤胞融解移植で、PCO患者の78.4%が継続妊娠し、その82.8%がHRT(ホルモン補充)周期移植で妊娠しました。HRT周期で反復妊娠不成功であった7人にクロミッド排卵周期移植を行い、5人は1回で継続妊娠になりました。 PCO患者の一部には子宮内膜の日付の遅れや、内膜の質的な問題で、HRT周期よりも排卵周期のほうが着床しやすい例があると考えられました。一方、妊娠しなかった例では平均年齢が有意に高く、卵の質が悪い可能性が考えられました。 このことから、PCO患者はしばしば排卵誘発が困難であるが、HRT周期のガラス化胚盤胞融解移植で繰り返し不成功の場合、排卵周期の移植を検討することが重要であると考えられます。また、排卵周期の移植でも不成功の場合は、PGS(着床前診断)などが有効である可能性があると考えられます。 2.ガラス化胚盤胞融解移植をD5とD6に行った場合の着床率と妊娠率と継続妊娠率の結果から、着床期のウィンドウを年齢別に考察する。(東京HARTクリニック、2013) 着床率とは胚盤胞1個あたりの妊娠(胎嚢確認)率です。妊娠率は1個以上の心拍が確認できた症例の割合です。移植に先立って子宮内膜日付診は行っていません。 39歳以下と40~42歳ではD-5移植の方がD-6移植での着床率、妊娠率、継続妊娠率よりやや高い傾向がありました。 一方43歳以上では、D-6移植の方がD-5移植より着床率、妊娠率、継続妊娠率が高い傾向が認められました。 着床期のウィンドウがあるとすれば、43歳以上ではウィンドウの発現時期が遅れている可能性があると考えられました。

ヒトの受精卵で遺伝子編集(中国)

院長記事
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最近ヒトの多精子受精卵を使って遺伝子編集を行った論文が中国から2つ発表されました。 多精子受精卵は、卵子に精子が2匹以上入った受精卵で、受精5日後までに発育を停止し、人になることはありません。今回の論文ではこれらを用いて遺伝子編集の実験が行われました。 遺伝子を変える方法としては、従来の交配と遺伝子組み換えと遺伝子編集(ゲノム編集)があります。家畜や農作物の品種改良、たとえばおいしい米やブドウなど食品としてすでに市場に流通しているものや競馬のサラブレッドなどは、何世代にもわたって交配を繰り返し、大変な労力と時間を要します。遺伝子組み換えは短期に行えますが、遺伝子を目的に合ったものに変えられる確率は低く効率が良くありません。 ゲノム編集はたとえば肉牛の場合、1頭当たり肉を多く採りたいので、多く筋肉がつくのを抑制している遺伝子を改変して機能しないようにします。そうすると1.5倍くらい多くの肉が採れる肉牛ができるのです。食用の魚も同様なことが可能ですが、まだ市場には出回っていないと思います。 さて2015年4月の中国からの論文ではヘモグロビン異常で貧血を起こす病気(βサラセミア)の遺伝子が正常になるよう多精子受精卵を使ってゲノム編集(塩基を1個置き換える)を行ったのですが、86個の受精卵にゲノム編集を試み、遺伝子の改変が確認できたのは28個のみでした。しかし目的以外の遺伝子にも変異が見つかりました。さらに、受精卵にゲノム編集をして遺伝子を改変すれば、2日目に4細胞、3日目に8細胞と分割していきすべての細胞に遺伝子改変が確認できるはずでしたが、改変してない細胞も混在しており、モザイクの状態でした。効率が悪いのと予期せぬ異常が起こってしまうので実験は中止となりました。 もう一つの論文は、ヒト受精卵のゲノム編集で、HIVに感染しない細胞を作るというもので、45個の受精卵のうち4個に改変が確認できたというものでした。しかし結果は上記と同じで、技術が未熟すぎると考えられます。まだ科学技術がデザイナーベビーなど考えられるレベルには達しておらず、一部の研究者は遺伝病の治療をしたいと考えられていると思いますが、神の領域に手を出すには、膨大な時間と膨大な研究が必要なのだと思います。 なお、世界の主だった国では、ヒトの遺伝子改変は禁止されています。

ヒト受精卵で受精後13日間の体外培養に成功(イギリス)

院長記事
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ヒトの受精卵を体外で長く培養するのは従来から困難で、当院でも受精から7日目までの培養です。7日目胚盤胞を移植して、妊娠した方もいらっしゃいます。 受精卵は必要とする栄養も発達段階により変わってきますし、アンモニアなどの有害物質も代謝により増加します。したがってこれまでの体外での培養の記録は9日間(受精から8日目)でした。したがって、受精から13日間体外培養できるのは画期的なことです。なぜ自分ではない受精卵が免疫的に拒絶されずに着床するのかなどの、様々なことの解明が今後期待されます。

3人のDNAを持つ赤ちゃん(アメリカ)

院長記事
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ヒトの細胞はヒト核DNAとは異なった環状DNAを持つミトコンドリアと共存し、ミトコンドリアが生存するのに必要なものをヒトの細胞が提供し、ミトコンドリアがヒトの細胞の生存に必要なエネルギーを作っています。ヒトの細胞が分裂するときはミトコンドリアも数を増やし協調して生存しています。ミトコンドリアは原始生物のようなもので変異を起こしやすく、ヒトでは厳密に母親のみから子供に受け継がれていきます。このミトコンドリアDNAの変異から人のルーツが明らかになりました。ミトコンドリア異常によりミトコンドリア病という神経や筋肉の病気を引き起こす病気があります。また、このミトコンドリアが老化に伴い、機能障害を起こす可能性があります。 1990年代後半には、卵子の若返りということで、老化した卵子に、若い正常な卵子の細胞質を一部移植する(ミトコンドリアを移植する)方法を用いて世界で約30人赤ちゃんが誕生していました。ただし、この治療法が有効だったから赤ちゃんを授かったのかは分かっていません。しかし2000年にその方法を用いて生まれた赤ちゃんを調べたら2種類のミトコンドリアを持っているという論文が発表され、基礎医学研究の先生も巻き込んで世界的に大論争になり(ミトコンドリアが変異を起こし、ミトコンドリア病になったりする可能性が高い)、自然界で起こりえないことを子孫に残す治療は一切行わないという世界的な規則ができました。 最近、イギリスで、子供が生まれたら100%ミトコンドリア病になる夫婦に限って、核移植をという治療を行うことを国が許可しました。すなわち正常な卵子の核を抜いて患者の卵子の核を移植し受精させると、正常なミトコンドリアを持つ受精卵ができます。しかし核だけ取り出しても周りのミトコンドリアも核と一緒に移植されて、細胞は2種類のミトコンドリアを持つことになり、将来何が起こるか予測不能です。その安全性の検討をしているためイギリスでもまだ核移植は実施されていません。 今回アメリカ人医師チームがメキシコで行ったのはまさにその核移植で卵子の核を入れ替えて、受精をさせて、子宮に戻す、という方法です。患者はミトコンドリア異常が原因のリー脳症という遺伝性の難病で、4回流産を繰り返し、2人出産後子供を亡くしていました。アメリカでは上記の歴史から、同様の治療は禁止されています。女児が生まれた場合はそのミトコンドリアは子孫に受け継がれますが、男児では受け継がれません。

染色体数が正常な胚盤胞の割合について

基礎医学
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(1) 正常な数の染色体をもつ胚盤胞の年齢別割合 (図1) アメリカのリプロジェネティックス社という遺伝情報診断センターの2012年までの約1万症例の約6万個の胚盤胞の染色体の異数性の検査結果を示します。体外受精周期に得られた受精卵を胚盤胞まで育てて胎盤になる細胞の一部を採り出し、アレイCGH(染色体の数の異常を調べる検査)という方法で染色体の異数性検査を行なったものです。胚盤胞はガラス化保存しておき、数的に正常な染色体の胚盤胞のみ融解移植します。 図1より、30代前半ではおおよそ胚盤胞の2個に1個の染色体が数的に正常であるのに、38歳を超えると3個に1個、41歳を超えると5個に1個が正常であり、卵子の老化により数的異常染色体の胚盤胞が多くなることがわかります。 ≪図1≫  (2) 胚盤胞および流産絨毛の染色体検査による異数性染色体異常の種類と割合 (図2) 図2の左の棒は体外受精患者の胚盤胞にPGS(アレイCGHによる着床前診断)を行い、その数的異常染色体の種類と割合を示したものです。そして右の棒は体外受精妊娠の流産手術(D&C)後の絨毛染色体検査の結果を示したものです。胚盤胞の数的異常染色体はPGSの結果では、約半数がトリソミー(1本多い)、約半数がモノソミー(1本少ない)です。倍数体は検出できないので示されていません。 D&Cの結果からモノソミーの胚盤胞では妊娠しないことがわかります(常染色体に大きな異常があると、発達し続けるための重要な情報が欠如しているため、妊娠といえる段階まで育たないのです)。トリソミーの胚盤胞は妊娠するけれどもほとんど流産になります。割合は少ないですが、倍数体での流産が認められます。したがって女性が高齢になると妊娠率は低くなり、妊娠しても流産率が高くなるのです。年齢が高く、流産を繰り返して、不育症ではないのか心配される患者さんますが、ほとんどの場合、卵子の老化が流産の原因なのです。 ≪図2≫  現在では次世代シークエンサー(NGS)という胚盤胞のより精度の高い染色体検査が可能になっています。反復流産や、反復着床障害などに応用可能となっています。より着床率や出産率が高く、流産率が低くなります。PGS(着床前診断)に興味がある方は医師に相談してください。

着床期のウィンドウについて

論文紹介
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ERAという、着床期ウィンドウの分子学的診断(子宮内膜の胚受容能の検査)方法の有用性について論じた報告です。 What a difference two days make: “personalized” embryo transfer (pET) paradigm: A case report and pilot study M.Ruiz-Alonso, N.Galindo, A.Pellicer, and C.Simon, Valencia, Spain Hum Reprod.2014 Jun; 29(6):1244-1247 「2日の違いは何をもたらすか:個別的胚移植(pET)の方法:症例報告と予備研究」 要約 胚の着床は、胚盤胞が、着床期のウィンドウ(WOI)としてよく知られている子宮内膜の胚受容期に、内膜に接着する必要がある。以前からすべての女性においてWOIの時期は、一定の時期に発現すると考えられてきた。しかし、子宮内膜の胚受容能を分子学的に分析した研究によると、反復着床障害に苦しんでいる患者の4人に1人は、着床期のWOIがずれていると報告されている。そのような例には、個別的に子宮内膜検査をする必要がある。 今回我々はある反復着床障害の患者、4回の体外受精と3回の卵子提供を行い異なった胚を異なった戦略で移植を行い不成功であった患者に、子宮内膜の胚受容能に基づいた検査を行い、着床期ウィンドウが何日目なのかを調べ、個別的胚移植を行い妊娠、双子の出産に成功した。さらに17名の提供卵子を用いたIVFにおいて、通常の胚移植では成功しなかった症例に、個々の着床期ウィンドウを調べ、個別的胚移植(pET)を試み、その有用性を検討した。 内容 背景 胚盤胞の着床は、胚と内膜の同期が必要であり、着床期のウィンドウの最適な時期に胚盤胞が着床する必要がある。子宮内膜の胚受容能に対しては、エストロジェン(卵胞ホルモン)とプロジェステロン(黄体ホルモン)が重要な役割をしていて、子宮内膜にはエストロジェンとプロジェステロンレセプター(ERα、ERβとPR-A、PR-B)が存在し、それらの信号伝達系には成長因子やサイトカインなどいろいろな物質が関与している。CD56が発現したNK細胞も着床に関わっている。しかしこれらの臨床的働きはあまり分かっていない。 1個あるいは2個の良好胚を3回以上の体外受精周期で移植して着床しない場合、反復着床障害(RIF)と定義されている。RIFの着床阻害している因子はよくわかっていない。RIFの患者の18~27%に、子宮内膜過形成、粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜炎、子宮内膜癒着などが認められる。卵管水腫、胚の染色体異常、先天性あるいは後天性栓友病なども関与が指摘されている。是正できる要因もあるが、まだ解明されていない要因も存在する。 着床が成功するためには、胚と子宮内膜の同期が必要とされているが、まだその臨床的な機構は解明されていない。その主な理由は、不妊の精密検査に、子宮内膜の胚受容能を客観的に個別に診断する方法がないからである。さらにWOIはRIFの患者を含めて、すべての女性に時期が一定していると思われている。 今回我々は、4回の体外受精と3回の卵子提供を行い、異なった胚移植の戦略を試み不成功であったが、個別的胚移植(pET)を行い成功した臨床症例を報告する。 症例 2回のIVFで、2個の良好胚をそれぞれ移植したが不成功であった39歳の女性が、我々のクリニックを訪れた。パートナーの核型分析、精液検査、女性パートナーの生化学検査、凝固因子の検査、免疫学的検査を行い正常であった。子宮鏡で亜中隔子宮であったが、外科的に正常内腔にした。 カウンセリングの後、体外受精を行い、採卵周期に2個の胚盤胞を移植し、次に凍結胚盤胞を2個、自然排卵周期に融解移植したが、妊娠しなかった。次の段階として、卵子提供を行った。まず2個のD3胚をホルモン補充周期(HRT)に黄体ホルモンを2日間投与した後(P+2)に移植した。不成功に終わったので、D3良好胚を2個自然周期でHCG投与後3日目に移植した。不成功に終わったので、卵子提供で2個の胚盤胞をHRT周期に、黄体ホルモン投与後5日目(P+5)に移植したが、不成功に終わった。異なった起源の提供卵子を用いたのにかかわらず、RIFに至ってしまったが、患者はなお治療の続行を望んだ。提供卵子で3回も治療し失敗したことから、背景にある問題は、子宮内膜が関わっていると思われた。 患者の着床期ウィンドウの分子学的診断(子宮内膜の胚受容能の検査)を、endometrial receptivity array test (ERA)で行った。ERAは内膜生検で得られた子宮内膜組織の、胚受容能遺伝子に関係した238個の遺伝子の発現に基づいた検査法である。この検査でRIFの患者のそれぞれのWOIが分かり、それぞれの患者のWOIに合わせた個別化した胚移植(pET)が可能である。 内膜生検はホルモン補充周期に、黄体ホルモン投与5日目(P+5)に行い、内膜は胚受容能獲得前であることが分かり、2日WOIが遅れていた。別のHRT周期の黄体ホルモン投与後7日目(P+7)に、もう一度ERAを行い、彼女の胚受容能の高い最適な胚移植日が決定され、次のHRT周期のP+7に2個の胚盤胞を融解移植し、妊娠36週に帝王切開で双子(健康な男児;2780G,2840G)を出産した。 17例の臨床検討 卵子提供治療を受けていて、同じHRT周期に通常の方法での移植を平均1.8個行い、1~6回(平均2.1回)の不成功経験を持ち、ERA検査により、ET日がWOIと同期していないと診断された17名の患者に臨床治験を行った。17名の治療歴は、移植周期平均2.1回、移植個数平均1.8個、着床率11%、臨床的妊娠流産回数平均4回、継続妊娠率0%であった。同じ手順でERA検査を行い、WOIと同期していると診断された日に、pETを行い良好な結果を得た。 着床率は40% (14/35)、臨床妊娠率は60% (12/20)、継続妊娠率は45% (9/20)、流産率は25% (3/12)であった(Table1)。 考察 反復着床障害患者の4人に1人は着床期ウィンドウ(WOI)のずれがあると以前報告し、それを診断するERAという方法を開発した。個別化して胚移植(pET)することで、Table 1のように良い結果が得られた。 院長の私見 臨床治験の17人の患者のうち、5,12,14,16番の4人は、通常のP+5移植で流産しているが、臨床的妊娠まで到達している。ERA検査でこれら4人全員WOIがずれていると診断され、移植日を調整してpETを行ったが、14番の患者しか継続妊娠に至っていない。論文の趣旨に同意はするけれども、ERA検査の確実性についてはまださらなる検証が必要と思われる。融解からハッチングまでが長いと、自動的に着床が遅れてWOIの時期と一致して、妊娠することも考えられる。